マイクロサービスは万能薬ではない:システムを分割すべき場合と分割すべきでない場合

2025/10/27

マイクロサービス―流行(ハイプ)なのか、それとも本当の解決策なのか?

ここ数年、マイクロサービスはソフトウェアエンジニアの間で一般的なキーワードとなっている。技術カンファレンスから技術ブログに至るまで、マイクロサービスのスケーラビリティ、柔軟性、そして独立したデプロイ能力が称賛されている。しかし、実際の導入は理論ほど簡単ではない。多くのシステムが早すぎる段階で「マイクロサービス化」され、その結果、運用コストの急増や制御不能な複雑性の増大を招いている。本稿では、マイクロサービスが本当に必要となる場面と、避けるべき場面について分析する。

マイクロサービスとは何か、そして何ではないのか

マイクロサービスとは、システムを複数の小さな独立したサービスに分割するソフトウェアアーキテクチャであり、各サービスはそれぞれ固有の機能を担当し、APIを通じて相互に通信する。各サービスは独立してデプロイ、スケール、そして更新することができる。
しかし、マイクロサービスとは次のようなものではない:
  • システムを「自動的に」より良くする魔法のような解決策。
  • すべてのプロジェクトにおけるデフォルトの選択肢。
  • ドメインを十分に理解しないまま「コードを分割」するための手段。
モノリス(一枚岩アーキテクチャ)と比べると、マイクロサービスは柔軟性をもたらす一方で、より高度な運用能力が求められる。モジュラーモノリスはその中間的なアーキテクチャであり、初期段階ではより安全な選択肢となることが多い。

システムをマイクロサービスに分割すべきタイミング

システムを分割すべき兆候

システムを分割すべきであることを示す明確ないくつかの兆候がある:
  • 大規模な開発チーム:複数のチームが同じコードベースで作業する場合、衝突や依存関係の管理が困難になる。
  • 明確に分離されたドメイン:システム内に、支払い、注文管理、ユーザー管理など、ロジックやデータが独立したドメインが存在する場合。
  • デプロイ速度の低下:モジュールAの小さな変更がモジュールBに影響を及ぼし、リリースが遅れる場合。
  • 独立したスケーリングの必要性:たとえば、支払い処理モジュールが商品管理モジュールの10倍のスケールを必要とする場合。

ケーススタディ:受注管理システムにおけるモノリスからマイクロサービスへの成功した移行

当初、社内の受注管理システムはモノリスアーキテクチャで構築されていた。注文数の増加に伴い、同時処理の速度が低下したため、チームはシステムをマイクロサービスに分割することを決定した:
  • Orderサービス:注文の処理を担当。
  • Inventoryサービス:在庫の確認を担当。
  • Paymentサービス:支払い処理を担当。
この分割により、各サービスは独立してスケールできるようになった。Orderサービスは、他のサービスに影響を与えることなく、1分間に数千件の注文を処理できるようになった。さらに、各チームが個別のサービスを担当することで、CI/CDも改善された。

システムを分割すべきではないタイミング

システムがまだ小規模で、明確なドメインが存在しない場合

システムにいくつかの単純な機能しかない場合、分割によって十分に独立したロジックを持たない「空の」サービスが多数生まれてしまう。

チームがマイクロサービスの運用経験を持っていない場合

マイクロサービスには、DevOps、オブザーバビリティ、トレーシング、CI/CD などの知識が求められる。チームがこれらに十分備えていない場合、システムを分割することは解決策ではなく、むしろ多くの問題を引き起こす原因となる。

運用コストが利点を上回る場合

  • 複雑なDevOps: 各サービスが独自のパイプラインと環境を必要とする。 
  • デバッグが困難:あるサービスで発生した不具合がシステム全体に影響を及ぼす可能性があり、サービス間をまたぐトレースは非常に難しい。

  • インフラコスト:サービスが増えるほど、コンテナやリソースの数も増加する。

早すぎる分割によって失敗した実際のケース

あるスタートアップは顧客管理システムを構築する際、最初から10個のマイクロサービスに分割する決定を下した。6か月後、システムは保守が困難になり、CI/CDは複雑化し、エラーのトレースも難しくなった。最終的に彼らは製品の安定化のため、モノリスアーキテクチャに戻ることを余儀なくされた。

決定を下す前に考慮すべき要素

  • 技術チームの成熟度:分散システム、オブザーバビリティ、トレーシングに関する経験があるかどうか。
  • インフラへの投資能力:CI/CD、モニタリング、アラートに十分な予算があるかどうか。
  • ドメインの分離度:ドメイン駆動設計(DDD)を適用して明確に分割できるかどうか。
  • ロールバックの容易さ:誤ったデプロイが発生した場合、以前のアーキテクチャに容易に戻すことができるかどうか?

モジュラーモノリスは安全なステップとなる

モジュラーモノリスとは、システム全体が依然として一つの塊でありながら、明確な論理的境界を持つモジュールに分割されたアーキテクチャである。これは理想的なステップであり、次のような利点がある。
  • リファクタリングが容易:必要に応じて、モジュールをマイクロサービスに分割してもシステム全体に影響を与えない。
  • シンプルさを維持:複数のサービスを運用する必要がなく、デバッグも容易。
  • 小規模チームに適している:複雑なDevOpsは不要。

ShopifyやBasecampのような多くの大規模システムは、マイクロサービスに移行する前に長期間モジュラーモノリスを維持していた。

結論

マイクロサービスは強力なツールであるが、万能薬ではない。システムの分割は、実際のニーズ、チームの能力、運用体制に基づいて判断する必要がある。モジュラーモノリスは、安全にスタートするための選択肢であり、システムの安定性を損なうことなく拡張を可能にする。優れたアーキテクチャとは「流行っているもの」ではなく、自身の状況に最適なアーキテクチャである。
編集者:TCOM