問題は文書そのものにあり、人にあるわけではない
すべてのソフトウェアプロジェクトにおいて、皮肉な現実が繰り返される:関係者全員が文書を理解していると思っているが、最終的な結果はその逆を示すことが多い。エンジニアは要件通りにコーディングしたと主張し、QAは製品が記述された振る舞いと一致しないと報告し、顧客は文書は明確であり、プロジェクトチームが誤解しただけだと考える。三者の視点は異なるが、たった一つの文書に基づいて、多くのエラー、遅延、再作業、そして協力体験のストレスを生むことになる。
重要なのは、問題の原因が人間にあるわけではないということだ。人は読んだものや個人的経験に基づいて解釈する。真の問題は文書の作り方にある:構造の欠如、標準的でない言語、図解・例・用語定義の不足、状態遷移の不明瞭さ、クロスチェックプロセスの不徹底。これらが欠けると、誤解はリスクではなく必然となる。良い文書とは、長さや見た目ではなく、すべての関係者が同じ意味で理解でき、個人の習慣や経験で解釈できないものである。
各関係者はそれぞれ異なる視点で文書にアクセスする:
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エンジニアは入出力データ、状態変化、処理の論理フロー、重要なマイルストーンを重視する。
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QAは望ましい振る舞い、例外シナリオ、警告状況、テストフローに注目する。
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顧客はユーザージャーニー、業務ニーズ、ビジネス影響を考慮する。
文書が中立で透明性に欠ける場合、各者は自分の経験に基づき隙間を埋めるため、分析・設計・実装・テストのすべての段階で誤解が生じる。
したがって、エラーを減らすことは個人の責任ではなく、文書システムの責任である。良い文書は明確な設計図のようなもので、すべての役割に一貫した認識を提供し、誰も推測や解釈を強いられない。文書が強固であれば、議論は減り、QAは正確なテストケースを作成し、エンジニアは最初から正確に実装し、顧客は要求が十分に満たされていると感じる。
このためには、文書をシステムとして構築する必要がある:構造の標準化、言語の標準化、図解の標準化、クロスチェックの標準化、プロジェクトライフサイクル全体で唯一の真実の情報源を維持する。本稿はTCOM社内文書を総合・拡張し、ISO/IEC/IEEE 29148、Specification by Example、BABOK、要求工学における国際的実践を組み合わせ、エンジニア、QA、顧客が同じ文書を読んでも同じ意味を理解できるための包括的ガイドを提供する。
BA、Dev、QA、顧客のための共通標準言語
誤解が生じる最大の原因の一つは、同じ単語を使用しながら異なる意味を付与してしまうことである。標準化された文書システムは統一された言語を持ち、誤解リスクを半分以上減らすことができる。
言語は単なる用語集ではなく、システムであるべき
要求文書にはグロッサリーだけでなく、完全なレキシコンが必要である。用語集、用語の使い方、定義、具体例、文書作成ルールを含む。プロジェクトでは、現在形の能動態、キーワード(SHALL, SHOULD, MUST)、単一行動記述のルールなどの規約を設ける。すべての人が同じルールを使用すると、文書は一貫性があり、読みやすく、議論が減り、コミュニケーション効率が向上する。
ISO IEC IEEE 29148標準では、言語の標準化は明確かつテスト可能な要求を構築するための3つの基盤の一つとされている。標準言語により曖昧さが避けられ、やり取り時間が短縮され、再作業が減り、プロジェクトのコミュニケーション品質が向上する。
用語は不変の意味を持つべき
よくある誤りは、馴染みのある用語を定義せずに使用することで、各人が異なる解釈をしてしまうことである。例えば、「ユーザー」、「顧客」、「管理者」、「スタッフ」などは異なる意味で解釈される可能性がある。用語が明確に定義されると、不変の意味を持ち、読者は推測せずに行動や役割を正確に理解できる。
曖昧な言葉を避ける
「柔軟」、「簡単」、「便利」、「スマート」のような感覚的形容詞は測定不可でテストもできない。実装時に議論を引き起こす。標準文書では感覚的な言葉を排除し、観察・測定・テスト可能な記述に置き換えることで、QA、開発者、顧客が同じ意味で理解できる。
図解、フロー、例による可視化
文章だけでは完全な合意は困難で、同じ記述でも人によってイメージが異なる。図解は全員の考えを同じ方向に導く。
適切な図を選ぶ
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Flowchart(フローチャート):データやプロセスの全体フローを把握
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Sequence diagram(シーケンス図):システム間の通信を示し、モジュール間の相互作用を理解
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State diagram(状態図):データの状態や変化を示し、QAが正確なテストケースを作成
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Wireframe/UI mockup:UIレベルの画面と振る舞いを示し、顧客が視覚的に要求確認
複数の図を組み合わせることで精度が向上し、QAがテストケースを確認しやすく、エンジニアがロジックを迅速に理解でき、顧客が業務に沿った振る舞いを確認できる。UML研究によると、複雑な業務における誤差を最大40%削減できる。
実例は理解の統一を助ける
Specification by Exampleの鍵は例である。正しい例はQAがテストケースをすぐに作成でき、エンジニアが必要なデータを理解し、顧客が意図を確認できる。また、テスト自動化(Given-When-Then)の基礎となり、要求・テスト・実装間の一貫性を生む。
文書構造の標準化
多くの企業は感覚で文書を書き、BAごとに習慣が異なるため、読者は構造を理解するのに時間がかかり、見落としが発生する。
標準文書は明確な構成が必要である:目的、範囲、定義、役割、ユースケース、メインフロー、例外フロー、データモデル、非機能要件、受入基準。ISO IEC IEEE 29148に準拠した文書は情報を探しやすく、見落としを減らし、読解効率を高める。
統一構造により、長期プロジェクトでも人員変更時に品質を維持でき、QA、開発者、顧客が同じテンポで文書を読み、BA個人のスタイルに慣れる時間を削減できる。
要求は解釈の余地を与えないように書く
要求は読者が二通りに解釈できない場合に価値を持つ。標準要求は以下を満たす:
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実施者、行動、トリガー条件、システム応答、測定パラメータを明示
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短く、現在形能動態、単一行動を記述
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感覚的言葉を避け、観察可能な振る舞いを記述
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例外、条件、状態を含む(接続切断、データ重複、タイムアウト、ゲートウェイエラー、トランザクションロールバックなど)
ステートテーブルやステートマシン図を使うと、QAが正確なテストケースを作成でき、重大なエラーを減らし、実装信頼性を高める。
単一情報源、複数表示
顧客、開発者、QA向けに文書を分けると情報が分散し、エラーが発生しやすい。解決策は単一情報源を維持し、複数のビューを出力することである:業務向け顧客版、論理完全な開発者版、QA向けシナリオ版。
すべての更新が同期されると、情報分散による誤りが排除される。TCOMは日本向けオフショアプロジェクトでこの方法を採用し、再作業を最大60%削減し、顧客満足度を向上させた。
クロスチェックと品質測定
クロスチェックは文書を読み返すだけでなく、実際の振る舞いと要求を照合することである。BAは業務を確認し、開発者は実現可能性を確認、QAはテストケースを確認、顧客は意図を確認する。ワークショップで分析、図解、曖昧点修正を行うことが効果的で、全員が同じ意味を理解できる。
文書品質は指標で測定可能:曖昧要求比率、例のある要求比率、要求からトレースされたテストケース数、誤解による再作業回数、平均読解時間。継続的測定により品質を改善し、プロジェクトコストを削減できる。
文書文化
良い文書も、チームが維持文化を持たない場合、価値を失う可能性がある。この文化には、変更時の文書更新習慣、必須レビュアー、全員への文書作成・読解スキル研修、定期的ワークショップで業務記述と要求解釈を更新することが含まれる。この文化が定着すれば、文書は一時的な付属品ではなく、製品の一部となる。
結論
エンジニア、QA、顧客間の誤解は個人のミスではなく、文書システムのミスである。良い文書は以下を備えるべきである:標準言語、一貫構造、明確な図解、完全な定義、具体例、厳密な状態記述、単一情報源、徹底したクロスチェックプロセス。正しく実施すれば、プロジェクトはスムーズに進行し、議論や再作業を減らし、自然に製品品質が向上する。
TCOM JapanはAIOTとITアウトソーシングの2つの戦略柱を持つ先進技術企業である。高度な技術力と、日本・オーストラリア・ヨーロッパでの数百件のプロジェクト経験を持つエンジニアチームが在籍。AI、スマートカメラ、企業向けソフトウェア、Web・モバイルアプリのR&D能力を有し、ISO 9001およびISO 27001に準拠した国際標準の品質プロセスを運用している。
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