SRSドキュメント作成でよくある10のミスがプロジェクトを最初から失敗に導く

2025/11/17

ソフトウェア開発プロジェクトにおいて、SRSドキュメントは製品の品質、進捗、成功可能性を決定する指針としての役割を果たします。適切に作成されたSRSは開発時間を短縮し、バグ修正サイクルの回数を減らし、運用チーム全体が製品について一貫した理解を持つのに役立ちます。逆に、構造が不十分で測定がなく、整合性のないSRSは、プロジェクトが基盤段階で失敗する直接の原因となります。よくあるエラーを深く分析すると、多くの失敗は技術的な問題ではなく、SRS作成時の思考が十分に厳密でなかったことに起因することがわかります。

以下では、各エラーの詳細な分析を示し、根本原因、影響、国際基準に沿った改善方法を明確にします。

1. あいまいで定量化されていない要求 

あいまいな要求は、関係者間の誤解を生むだけでなく、チーム全体が主観的な解釈の罠に陥るドミノ効果を引き起こします。「インターフェースは美しいこと」「システムは高速であること」といった記述がSRSにあると、各人が自身の経験に基づきその意味を定義します。デザイナーにとって美しいインターフェースはミニマリズムの遵守かもしれません。ビジネスマネージャーにとっては情報量の多い表示、美しいとはユーザーにとって便利で操作しやすいことかもしれません。この意見の不一致は受け入れ段階での争いにつながります。

定量化の欠如は、開発者が技術的解決策を実装するための現実的な基準を持たないことも意味します。感覚的に定義された要求では、技術チームは要件を満たしているかどうか判断できません。この結果、開発は続くものの、真に完成することはありません。「高速」と記述されたシステムは具体的な指標がなければ評価が困難です。一方、「ダッシュボードは最大5万件のデータを2秒以内で表示する」といった要求は、開発者がアーキテクチャやキャッシュ構造、最適化手法を決定する助けになります。

プロジェクト管理の視点では、あいまいな要求はコストを指数関数的に増加させます。多くの研究で、要求段階で発生する修正コストは早期発見の10倍になることが示されています。あいまいさは製品完成間近でも多くの修正サイクルを引き起こし、リリース遅延、ストレス増加、品質低下の原因となります。

2. 例外ケースとエラーフローの無視 

理想的なフローのみで設計されたシステムは一見きれいに見えますが、実際の運用を反映していません。ユーザーは操作ミスをすることが多く、データは完全にクリーンではなく、サードパーティシステムの応答が遅いことや接続が失われることもあります。そのため、エラーフローの記述が不足していると、理論上は正常に動作しても実運用では頻繁に障害が発生します。

エラーフローは単にメッセージを表示するだけでなく、バックエンドでのデータ処理も含まれます。例えば、支払いトランザクションが失敗した場合、データのロールバックが必要か、注文ステータスの更新方法、ログ記録の有無、システムが自動再試行するか、ユーザーへの次のナビゲーション方法などが明確でないと、各開発者が独自に判断し、一貫性のないシステム動作を招きます。

エラーフローはテストにも直接影響します。テスターはユーザーが誤ったデータを入力した場合のシステムの反応を推測できません。記述が不足しているとQAは経験に基づいてテストシナリオを作る必要があり、包括的なテストが行えません。このため、デモでは安定していても、実運用では頻繁にエラーが発生することがあります。

3. ビジネス分析とシステムコンテキストの不足 

機能要求のみを記述したSRSは、製品目標を正確に反映しないことが多いです。ビジネス分析が不足すると、開発チームは機能を部分的に構築し、全体像を把握できません。その結果、システムは仕様通りに完成しても、実際のビジネス問題を解決できません。

多くのプロジェクトで、企業は特定のプロセスで困難に直面し、いくつかの機能を追加すれば改善できると考えます。しかしBAがコンテキストを十分に分析せず、現行プロセスを評価せず、ビジネス目標を明確にしないと、構築されたソリューションは表面的な問題しか解決できず、ユーザーは手動操作やワークアラウンドを続けることになります。

コンテキスト分析の欠如は、データ、処理フロー、アクセス権の矛盾も生みます。例えば、輸送管理システムには運転手、コーディネーター、顧客、管理者など多くの役割があります。コンテキストが不明確だとアクセス権の要件が不完全になり、データ漏洩や誤操作のリスクが生じます。

良いSRSは、ビジネス目標、現状の課題、関係者、運用プロセス、改善期待を含むコンテキストの記述から始まります。全体像があることで、すべての機能要件と非機能要件が開発の基盤を持つことができます。

4. プロジェクトスコープが不明確 

スコープはプロジェクト全体の骨格とみなされます。あいまいなスコープは設計図のない家の建築のようなものです。開発チームは継続的にコーディングしますが、どこが境界で、どの機能がコアで、次のフェーズに含まれる部分かが不明確です。顧客視点では、あいまいなスコープは小さな要求を継続的に追加する傾向を生み、進捗やコストへの影響を認識できません。

スコープクリープは明確なスコープがないプロジェクトでよく見られます。顧客は、小さなフィールド、ボタン、フローの追加が簡単だと考えます。しかし、技術的には、小さな変更でもロジックブロック、データモデル、テスト、統合に影響する可能性があります。初めから明確な境界がないと、プロジェクトは無限に延長され、品質は低下します。

高品質のSRSは、何を行い、何を行わないか、そして現フェーズで除外する理由を明確にします。これにより、PMはリソースを予測し、計画を立て、優先順位を決定し、現実的なタイムラインを作成できます。顧客も、現スコープが明確で合意されている場合、要求が次のバージョンに回されることを受け入れやすくなります。

5. 用語定義とキーワード標準化の欠如

各業界には特有の用語があり、企業ごとに使い方が異なります。「注文」という単語でさえ、複数の状態、条件、分類を含むことがあります。定義が不明確だと、SRSを読む人が独自に解釈し、議論が長引くことになります。

用語集の欠如はBA、開発者、QA間で混乱を引き起こします。例えば、内部ユーザーには一般社員、部門長、管理者など複数のレベルがあります。定義がないと、アクセス権要求が誤ったり不足したりし、重大なセキュリティリスクを生みます。

用語集は理解の統一だけでなく、ロジックレビューの時間を節約する助けにもなります。共通定義表があることで、全メンバーが同じ言語を使用し、争いやエラーを減らし、開発スピードを上げます。

6. 要求の重複や矛盾 

SRSが数百ページに及ぶ場合、重複はよく発生します。ビジネスフローで記述された要求が、機能要件の別の形式で再度記述されることがあります。両方が同時に更新されないと、必ず矛盾が生じます。

矛盾は一貫性のない制約として現れます。例:UIでのファイルサイズ制限が5MBだが、非機能要件では20MBと記載されている場合、開発者はどちらを基準にすべきか分からず、QAはテスト基準に困り、顧客は要件を満たしていないと判断します。

この問題は、SRS内の各部分の連携不足に起因します。国際標準のSRSでは、各要件に固有IDを付与して参照しやすくすることが求められます。IDがあれば、要件間の関係を確認し、重複を避け、論理の一貫性を維持できます。

7. 非機能要件の不足や不十分な記述

多くのプロジェクトは機能不足ではなく、システムが安定していないことで失敗します。機能が揃ったアプリでも、遅い、エラーが多い、攻撃されやすい、拡張性がない場合、失敗と見なされます。SRSが機能記述のみで非機能要件を無視すると、システムアーキテクチャに堅固な基盤がありません。

性能はNFRで最も重要な要素です。画面の応答時間を明確にしないと、開発者はキャッシュ最適化やページングが必要か判断できません。負荷耐性を明記しないと、ユーザー増加でシステムが落ちます。同様にセキュリティ要求が不十分だと、注入攻撃やブルートフォースに弱くなります。

プロフェッショナルなSRSは、NFRを測定可能な数値で記述し、条件、テスト方法、展開環境の制約も明記します。

8. 明確な受入基準の欠如 

受入基準は関係者間の契約の役割を果たします。基準がないとQAは正確にテストできず、開発者は完了の判断ができず、顧客も受入が困難になります。その結果、プロジェクト後期に争いが発生し、進捗が遅れ、品質低下につながります。

良い受入基準は、入力条件、システムの挙動、出力、品質基準を明確に示します。基準がない要求は大きな解釈の幅を生みます。SRSでは各要求に受入基準を含めることが推奨されます。

9. 図解やモデリングの欠如

文章だけの記述は長くなりやすく、理解が困難です。人間は視覚的に覚えやすく、特に複雑な業務フローや多システム統合の場合はなおさらです。図がないと、関係性の理解に時間がかかり、誤解が生じやすくなります。

図は理解時間を短縮し、全員の視点を統一する手段です。文章5ページのプロセスも、1つのフローチャートで全体を理解できます。図は論理エラーの早期発見にも役立ちます。

図を省略するのは、ドキュメント作成が急ぎすぎたり、文章だけで十分と思われる場合に起こります。実際、分岐や条件、多くの統合ポイントを持つプロジェクトでは、図は不可欠です。

10. 要求変更時のドキュメント更新不足 

プロジェクトでは要求変更は頻繁に発生します。しかし、SRSが更新されないと情報のギャップが生じます。SRSは死んだドキュメントとなり、現実を反映せず、開発チームと顧客の参照源がずれます。

更新が遅れると、特に受入時に争いが発生します。顧客は機能Aが変更されたと思っても、開発チームは古いバージョンで作業している場合があります。これにより争いが発生し、進捗が遅れ、費用の紛争につながることもあります。

標準的なSRSは変更履歴、バージョン管理、明確な承認プロセスを持ちます。変更ごとに影響分析、SRS更新、全メンバーへの通知を行います。正確で同期されたドキュメントにより、プロジェクト全体は円滑に運営され、誤解が最小化されます。

結論 

SRS作成時の10の一般的なエラーは、詳細不足だけでなく、ドキュメント作成思考の不十分さに起因します。高品質なSRSは、深いビジネス分析、明確な機能記述、測定可能な受入基準、一貫したスコープ、視覚的な図解に基づいて構築される必要があります。これらが整うことで、開発チームは正確な指針を得て、衝突やコストを削減し、製品の品質を確保できます。

参考資料:

企業にもたらすITアウトソーシングの5つの実質的価値

編集者:TCOM